ルジャンドルの読書記録

ルジャンドル(Twitter id:nattogohan_suki)の、読書メモを記します。

読書記録:明治時代の息づかい『簡易生活のすすめ』

この本を読みました。

 この本は、明治時代の新聞や雑誌を紐解いてみえてきた「簡易生活」という生き方をまとめて紹介した本です。明治時代とはずいぶん昔、1868年から1912年の間のことですが、その当時のナマの生き方がありありと感じられる資料が集められていて、興味深かったです。「簡易生活」とは簡単に言えば、無駄を省いて効率よく暮らすことです。盆暮れの贈答を省くとか、ムダに広い家に住まないとか、見栄を張らないとかが重要です。

 とくにオォと思ったのは、紹介されていた「佐々一家」という人たちです。

…佐々家では一定の年齢以上の子供は、家事が完璧にできるように教育されている。大人が出かけた際には、留守番役の子供が夕食を担当する。(p.110)

...奥さんは生活の改善が趣味だったようで、インタビューで「軍艦の中でも一度見てきましたなら、又善い考えも出るかと思います」(『家庭雑誌 一巻第三号』)と語っている。軍艦の部屋は狭い。限られた空間を便利に使う工夫が多数あるはずだから、参考にしたいと考えていたのである。(p.110)

 詳細をうかがい知る資料がなかったというので残念でしたが、佐々夫人はあらゆる効率化を図ってうまく暮らしていたということでした。

 

 とはいえ、全体的に文章が読みにくくて、最後まで読むのが大変でした。ネットに多くある、まくし立ててしゃべっているような勢いのある文体で、好きな人は好きなのかもしれませんが僕は嫌いでした。紹介されている事例も一つ一つは面白いのですが、こうしていざ感想を書こうと思うと、うむ、と唸ってしまいます。

 なぜ感想が書きにくいのかな、と考えてみたら、けっこうテーマが弱いからなのではないか、ということに思い至りました。この本で紹介されている「簡易生活」のようなことは、現代では普通とは言わないまでも、ある程度実践している人は多いような気がします。自分もどちらかといえば簡易生活に寄った暮らしをしています。「現代と同じようであるが明治のほうはこんなに優れている!」だったら、この本みたいにずいずいといろんな事例を紹介していって終わってもいいのかもしれないんですが、この本のように、「現代と同じような考え方が明治時代にもあった!」というのは、たしかに驚きではあるものの、なるほどね、といった具合で終わってしまいます。副題の「明治にストレスフリーな最高の生き方があった!」というのも、「ウソじゃん、いまもやろうと思えばできるやつだしやってる人いるじゃん」という感じです。紹介した事例を受けての筆者のコメントや分析が結構穏当な感じだったのも、あまり好きじゃないと感じた原因かもしれません。

 それでも、この本みたいに、資料をたくさん読み込んでストーリー性を持たせて原稿を仕立てるのはかなり大変だし、目をつけている事例はどれもおもしろいので一読の価値のある本だと思います!

 

以上です。