この映画を観ました。
この映画は、第一次世界大戦に参加した英国軍兵士に着目したドキュメンタリーです。画面は、戦争当時撮影されたモノクロ映像を着色した映像と当時の広告ビラや戦場の写真を中心としていて、ほとんどの音声は退役軍人のインタビュー音声です。
第一次世界大戦の開戦が宣言されるところに始まり、志願兵の募集や応募の様子、訓練の様子、戦争の前線や補給所の様子、戦闘の様子、戦争が終わって本国に帰還したときの様子が描かれたものです。
映画のなかで、兵士の集団を撮影した映像が何度も流れるのですが、印象的だったのは映っている兵士の表情がみな明るい表情であったことです。もちろん、当時ビデオカメラはめずらしいし、カメラを回せるような状況で撮影されたものなので、撮影される人は笑顔を向けるのは当然かもしれません。精神的にやられている人のことをわざわざ撮影することもないでしょう。それでも、敵からの砲撃に怯え、いつ前線に投入されるかもわからない状況の兵士たちがそういった表情で映像に捉えられているのは、印象に強く残りました。
この映画は、BBCにたくわえられた退役軍人からの聴き取り音声600時間分をもとにつくられています。「どうせ仕事もないから戦争に行くことにした」、「志願兵に応募したとき、年齢を偽った、偽らされた」、「訓練は大変だった」、「タバコが支給されたけどあんまりおいしくなかった」、「支給されるビールは10倍くらいに薄められてたんじゃなかな」…などなど人間らしい、微笑ましくもあるようなエピソードが語られます。まさに、「彼らは生きていた」ということが描かれています。
語られるディテールのなかで、おもしろくて見終わったあとすぐメモしたのは次のようなものです。(記憶頼みなので間違っているかもしれませんが…)
- イギリスとドイツのラグビーチーム同士で食事をしていた時に、開戦のニュースが舞い込んできたが、「戦争は明日からだ」と食事を続けた
- 前線で間抜けなやつがいたら、特に手助けはしないけれども怒鳴るでもなく、家族を見守るようにしていた。でも、補給所に戻った時には相手にしなかった
- 弾丸が着弾した後に音が聞こえる。音速を超えているから
- 馬を撃ち殺された騎馬兵が、上官に休養を命じられていた
- 基地での暮らしではささいなことがおかしかった
- 大規模な戦闘を直前に控え、前線で大泣きし喚きちらす奴がいて、上官はそいつを銃殺することを命じた
- 決着後、捕虜として塹壕から引っ張り出したドイツ兵はひどく怯えていて、そこで同じ境遇の若者であることを意識した
- 捕らえられたドイツ兵も、イギリス軍ドイツ軍を問わず負傷者を救おうとしていた
- 戦後、帰還軍人は冷遇された。帰還兵お断り、と書かれた求人も多くみられた
戦後の英国で帰還軍人が冷遇されたことについて、「市中と戦地は違いが大きすぎて、想像の範疇を超えているんだろう」という語りがありました。この映画で、ほんの少しですがそのギャップを埋められた感じがします。
最後に、この映画のパンフレットにあるピータージャクソン監督のQ&Aに書かれている言葉を引用しておきます。
(ナレーションに退役軍人の声を使った経緯についてお話しいただけますか。という質問に対して)
...この映画は、第一次世界大戦で歩兵として戦うことはどのようなものであったかという、平凡な男路の経験でなければならない。この男たちが語っていることは、僕の祖父や曾祖父が経験したであろうことだ。この映画を通して彼らの人生を理解するようになるだろう。(「彼らは生きていた」映画パンフレット、p.4)
以上です。