ルジャンドルの読書記録

ルジャンドル(Twitter id:nattogohan_suki)の、読書メモを記します。

読書記録:『あらすじとイラストでわかる資本論』

今回はこの本を紹介します。

 

あらすじとイラストでわかる資本論

あらすじとイラストでわかる資本論

 

 

なんで資本論

 資本主義社会に生きているにもかかわらず、資本とは何なのかをおぼろげにしか理解していないな、とつねづね思っていました。まずは古典だ、とマルクス資本論に手を付けることにしましたが、原典にあたる気力はなかったので、このようなわかりやすくまとめてある本を入手し通読しました。
 読んで理解したことの備忘録として、簡単な要約と感想を記します。

マルクスの最大の発明:剰余価値

 『資本論』は、資本の性質を理論的に説明し、そのような性質が実際どのような現象として社会にあらわれているかを記した書物です。この『資本論』でマルクスが述べていることのなかで、理論的にもっとも重要なことは、「剰余価値」という用語です。
 物の価値の定義し、貨幣の登場などを説明したのち、資本主義社会が発生したときになにが起こるのかを「剰余価値」という用語をつかって説明しています。
 商売というのは、「安くつくって高く売る」というのが基本です。ここで生じる利益は、「利益=売値-経費」という簡単な式で計算できます。マルクスは、この利益を「剰余価値」という用語で説明しています。

剰余価値とは

剰余価値?利益って言えばいいじゃない、と思いますよね。僕もそう思いましたが、利益じゃない言葉を使う意図があります。そこをかなりざっくりまとめると、次のようになります。

 現在、モノA=100円という価値観があるとします。ここでモノAをつくる人の腕がよく、モノAを80円の費用でつくれたとすると、本来はモノA=80円の価値になるけれど、この80円に20円を上乗せして、100円で売っても妥当です。資本主義社会では、モノAをつくって売るという行為を“労働者の労働”を介して大規模に行います。大規模な商売では、材料費と労働者への給料を経費に含め、利益はすべて資本家のものになります。式に落としてみると次のような形です。
 モノA=100円=経費〔材料・設備費(60円)+給料(20円)〕+利益(20円)
モノAの価値が100円ということは、本来80円のものに20円だけ余分に価値が生まれているということになります。マルクスはこの余分の価値20円のことを剰余価値と呼びました。
 ここでマルクスは、“労働者の労働”が剰余価値を生じさせている、と考えました。そして、労働者の労働がなければ生じなかった価値(=剰余価値)を、資本家(=雇用主)が奪い取っている、とマルクスは主張します。たとえば、私人と私人の取引であれば、モノAを安くつくることができた人は、材料・設備費60円、労賃(給料)20円、剰余価値20円の計100円を得て40円が儲けとなります。一方で、資本家(=雇用主)を介すると剰余価値の20円が搾取されて20円しか儲かりません。

このように、マルクスは、「商売のしくみ」ではなく「モノの価値」に着目し、モノの貨幣価値を構成する要素を分解して名前をつけました。そのような立場を踏まえれば、「利益」ではなく「剰余価値」と呼ぶことにしたのは納得できました。

剰余価値の搾取のなかでなにが起こる?

 資本家は、事業を進めていくうえで剰余価値の最大化を図ります。剰余価値を最大化するためには、(1)材料・設備費を減らすこと、(2)給料を減らすこと、の二つの方法があります。(2)は明らかに労働者を犠牲にした方法ですが、(1)の場合でも労働者は犠牲になる、とマルクスは述べます。それはいったいなぜなのでしょうか。

生産の効率化=人員の削減および代替可能性の向上
 材料・設備費を減らすということは、モノの生産を効率よく行う、ということです。モノの生産を効率よく行うには、いい生産装置を導入することと、細分化した工程を流れ作業で行うのがよいでしょう。いい生産装置を導入すれば、必要な人手は大きく減り失業者が増加します。また、特定の工程を流れ作業で担った人にはスキルが身につかず、一人で身を立てることが困難になります。
 一人で身を立てることが困難になるのであれば、全工程に習熟して一人の職人になるべく努力するのが良いのか、というとそうもいきません。資本家が用意した工場が生産する品物はそれなりの品質のものを安く大量に市場に出荷します。そうなると職人は淘汰されてしまうでしょう。
 このように、資本家が効率的な生産を目指すことも労働者を苦しめる結果となるのです。

なぜ搾取はつづくのか
 ここまでは、労働者がいかにかわいそうか、という話でしたが、なぜ資本家がそのような搾取を続けるのかについても言及されています。これは単純に、どんどん儲けたいからです。資本家が剰余価値を得ると、それを生産効率化のために投資して生産の規模を大きくします。そうすることで得られる剰余価値が増えます。これを繰り返すと資本家の資本はどんどん増えていくのです。
 では、生産の規模が大きくなるとどうなるかというと生産に従事する労働者が増えます。すなわち搾取される人数が増えるのです。この労働者たちは、特別なスキルを持ちませんから、資本家の好きなように使い捨てられるのです。設備の効率が上がれば切り捨てられるし、人手が必要であればふたたび雇用されるというかたちで。

まとめ

 資本があると、剰余価値の増殖が目指される。その結果、資本家に雇われる労働者は割を食ってしまうという構造が出来上がる。かなり簡単ですがこのようにまとめられます。この構造が、労働者の反乱から革命へとつながるというマルクス主義を支えています。

感想

 この本は、マルクス資本論をかなりざっくりとわかりやすく説明している本です。イラストをつかって理解を促していることや、原典のあらすじとその解説をそれぞれ見開きで構成していることもわかりやすさの一つのポイントだと思います。総じて、資本論のエッセンスを理解するのにとても役に立つ本だと思います!
 正直なところ、資本論を読んで、気分がかなり暗くなってしまいました。資本のない僕は搾取される側まっしぐらだからです。資本主義社会である現在の日本の経済には息苦しさを感じていますが、そのしくみがかっちりと言語化されているなァ、と素直に感心しました。1867年に書かれたこの内容が、現代を生きる我々の状況にも当てはめられるというのは本当にすごいことだと思います。もちろん、労働者の権利などをはじめ改善されている点もあるし、マルクス主義にもとづく社会主義の問題点も数多く指摘されてきているのでうのみにすることはできませんが、学ぶところの多い理論でした。
 本当なら原典を読み解くのがいいんでしょうけれど、きっとむずかしいし、この本を読んでから原典に取り掛かるのもまたよいのではないでしょうか。

マルクス主義のファンの方にとって見過ごせない理解違いや誤った記述があるかもしれません。もし気になった方がおりましたらご指摘いただけると嬉しいです。

(初投稿:2019年10月25日)