ルジャンドルの読書記録

ルジャンドル(Twitter id:nattogohan_suki)の、読書メモを記します。

読書記録:権謀術数を駆使する小学5年生たちの「戦争」 『よいこの君主論』

今回はこの本を紹介します。

 

よいこの君主論 (ちくま文庫)

よいこの君主論 (ちくま文庫)

 

 

小学生のための「君主論

 この本はかの有名なニコロ・マキャベリが著した「君主論」に基づいて書かれています。現代の勢力争いにも十分応用が利く錆びない刀のような「君主論」。この「よいこの君主論」では目立小学校5年3組という舞台で、ひろしくんがクラスを支配するまでを、君主論のメソッドにしたがって描き出しています。
 いわば、『小学生のための「君主論」』といった趣の本に仕上がっています。

語るに落ちる、5年3組の君主たち

 5年生に進級したひろしくんをはじめとする5年3組のなかまたちは、はじめのうちは小さな「仲良しグループ」に分かれています。4年生の時に同じクラスだった人もいれば、違うクラスだった人もいるのでそれは必然です。この状況は小国乱立状態、各グループの君主政体をあてはめるのに格好のシチュエーションです。ふつうに何人かの友だちをつくったひろしくんは「新興君主」、人気者の兄をもつたかしくんは「他人の軍備に頼った君主」、学級委員長のまなぶくんは「聖職者による君主」などなど…(第1章 君主政体の種類)

 こんな話もあります。5年3組には、まあやちゃんという女生徒がおりました。彼女ははじめ、「仲良しグループ」に属しておらず、そのまま春の一大イベントである「遠足」に参加することになりました。
まあやちゃんはあやのちゃんグループ、わかなちゃんグループという二つの小国に目を付け、巧みに接近しました。ことが起こるのは行きのバスです。まあやちゃんは、二つの小国君主に「プリン」「漫画」という二大兵器を発動させまんまとバス酔いを引き起こし戦線を離脱させ、小国の配下たちを我がものとし一挙に二つの小国を属国としてしまうのです。(7章 極悪非道の正しい使い方)

 もう一つ例を。季節は秋になり、目立小学校ではマラソン大会が開かれます。4月に始まった権力争いも数々の戦争や、政治的駆け引きの結果、本書の主人公であるひろしくんグループ、学級委員長であるまなぶくんグループ、ハイエナりょうこの異名を持つ吸収合併に長けたりょうこちゃんグループの三大勢力に絞られています。マラソン大会ではひろしくんが運動の苦手なまなぶくんに「一緒に走ろうよ」と持ち掛け、当日は先に行ってしまうという裏切りを見せることでまなぶくんの君主としての能力に疑問を持たせることに成功、国を解体してしまいます。(17章 信義を守る必要はあるのか?)

みどころ

 この本の章立ては、マキャベリ君主論に沿っています。そのそれぞれを、「遠足」「ドッヂ大会」「秘密基地の事件」「夏休み」「マラソン大会」「運動会」などなど、小学生に特有のイベントに絡めて的確に描き出しています。実際かなりかみ砕いて君主論を理解することができますが、それ以上にかなり笑えますので、非常にオススメです。

(初投稿:2016年9月6日)