ルジャンドルの読書記録

ルジャンドル(Twitter id:nattogohan_suki)の、読書メモを記します。

読書会レポート:あふれ出る聖性 『一人の哀しみは世界の終わりに匹敵する』

今回はこの本を紹介します。

 

一人の哀しみは世界の終わりに匹敵する (河出文庫)
 

 

読書会のテーマ本

 2017年11月12日日曜日,東京駅付近にてこの本をテーマに読書会を開きました.この本は僕がテーマ本に選定しましたが,「よくわからないので,ほかの人の意見を聞きたかった」というのが理由です.

あらすじ

聖書の中で語られた出来事が,もし学校で起こったら….アダムとイブの物語にも似たバレンタインの一日や,「安息日の律法」と見紛う女子校でのルールなど,聖なる愚か者を巡る五つの物語.(河出文庫版裏表紙より引用)

わからない!わからない!

 この物語は,わかりませんでした(笑).文庫版には短編5話からなる表題作の「一人の哀しみは世界の終わりに匹敵する」と,「レギオンの花嫁」の二作品が収録されていましたが,どちらも大変難解です.比喩とオマージュの嵐が吹き荒れ,丸腰の我々が乗り込んだ船は座礁寸前,ほとんど何を話していいのか,そして何を話しているのかさえもわからなくなるほどでした.レギオンの花嫁に至っては,内容に踏み込んだ議論はほとんどできませんでした.
 しかたがないので,「一人の哀しみは~」について話し合うことに.「一人の哀しみは~」を構成する5編のうち初めの4編は女学生を主人公としたお話で,最後の1編は成人女性が主人公になっており,一人の女性が小学校から大人になっていくまでが時系列にそって描かれているのかな?ともとれる構成です.それぞれの短編には,モチーフとする聖書のエピソードを含んでいます.モチーフが明確に読み取れたのは,「創世記」「安息日の律法」「ユダの裏切り」「処女懐胎」くらいです.
 聖書をモチーフにする意図,舞台設定の意図,物語の言わんとすることなどなど,いくつかのテーマで検討してみましたが,そのどれもがよくわからない.しかし,この「わからない」にも,「わからなくて嫌」という人と「わからないが良い」という人がいるのが読書会の面白いところです.
 僕自身は,「わからないが良い」派です.その理由を言葉にし,話の道しるべとしました.

  1.  女子校の聖域性を強く感じる
  2.  キリスト教聖典としての聖書がモチーフになることで聖性が付与される

 1.に関しては僕が男性であり,女性性への憧れのようなものを持っていることが原因である可能性があります.ただ,女子校を舞台にした物語が数多くあり,それが必ずしも男性だけに好まれているわけではない点に鑑みれば,僕が感じる聖域性は一般的と言えなくもないのではと考えます(僕が特別女学生が好きなわけではない,ということを主張しています).また,その聖域性に聖書の聖性を重ねるとより聖なる物語っぽくなるではありませんか.
 そして,文芸作品の聖性が高いと感じるとき,その文章は詩的な性質を帯びると思います.詩的な性質を帯びると,人はその作品が途端にわからなくなります.なぜなら詩には方向性はあれど,正解はないからです.読者の数だけ広がる世界があり,広がった世界を味わうことで楽しむのが詩です.これまでやってきた読書会は,作品に記述された世界の断片を拾って行間を埋めるような形ですすめた回が多く,今回もそのような進行を試みたのですが,そこをすこし工夫するべきだったのかもしれません.
 わからないものにあたるときの一つの方法論として,わからないにしてもそれは好きか嫌いか,という点で考えると面白いことに出会えるかもしれないというのは覚えておこう,と思いました.

 次回は,2018年1月27日土曜日,東京都内のどこかでサマセット・モームの「月と六ペンス」をテーマ本として読書会を開きます.ご興味のある方は是非ご連絡ください.

(初投稿:2017年11月18日)